2019/2/3

年をまたいでしまったが、2018年8月に見たAokid×篠田千明「Tiger, Tiger」についての記録と感想、とそれに関連した雑感、その1。

1 Aokid×篠田千明「Tiger, Tiger」



「Tiger, Tiger」は、アーティストの運営によるインディペンダントなフェスティバル、Bangkok Biennial 2018の中で篠田千明が企画したSuper Natural Pavilionというイベントシリーズの一環でつくられたダンス作品である。
この作品は、バンコクの下町エリアにあるSoontorn Thammathan寺を基点として、その周辺のいくつかのスポットを巡りながらツアー形式で上演された。
メインで演じるのはダンサーであるAokid一名であるが、そこに太鼓の演奏者が加わったり、観客がダンスやアクションに巻き込まれる展開も含まれている。

観客は、まずスタート地点であるタイの伝統舞踊の太鼓奏者の家に連れていかれる。そこには小さな踊りの稽古場があり、縁側から庭先を眺めるような形で座り、篠田によるイントロダクションを聞く。彼女がバンコク内のいくつかの寺で祭りのリサーチを行ってきたこと、そこで見られる神がかり的な行為などについて、簡単な説明がある。ただしその後全編を通してほとんど言葉は用いられず、冒頭の説明が作品のディテールにどう反映されているのかも、具体的には示されない。
パフォーマンスが行われる場所とシーンは以下である。

1 踊りの稽古場: 太鼓演奏に合わせ、虎と戦うような踊り
2 ビルの屋上: ブルーシートの登場 シートとの格闘
3 路上: ブルーシートの化け物が移動
4 お供えの場所: 氷のお供え ボディペイント
5 寺院裏の広場: 再び虎の踊り 人間の踊り

2時間弱のツアーだが、それぞれのスポットには興味深い景色があり(観光客という立場からすると特に)、犬が舞台をうろついたり通行人が立ち止まったり近所の子供がやってきたりと、ノイズがその都度発生する。観客は、劇場における鑑賞のように、じっとしてダンサーだけを凝視するわけではなく、景色を眺めたり写真を撮ったり、犬の動きに気を取られたりと、地域の祭りに参加するような気軽さと自由さを保つことができる。
ここでは、ダンサーの一挙手一投足を注視することが「見る」ということではない。むしろ積極的によそ見をしながら、人やものも含め自分以外の視点を取り込んでいくこと、また耳や手や足でも見ることが、この公演においては「見る」経験になるだろう。

稽古場での最初のダンスは、作品モチーフの紹介でもあるが、太鼓奏者との稽古風景を見学しているようでもある。Aokidは一つ一つフォルムを変えながら自らの身体や場所を確認するように動く。
戦うような動きが用いられ、タイトルから連想されるが虎のような動物的な身振りも行われる。Aokid自身が虎であるようにも見えるし、虎と戦う人間であるようにも見える。踊るという行為は、いずれにせよ何人か分の行為や動きを肩代わりして行う、ということでもあるのかもしれない。

前半で秀逸だったのは、ビルの屋上でブルーシートと格闘し始め、徐々にそれに飲み込まれながら階段から路上を移動していくシーンである。シートの質感は固く、皮膚というより殻のようで、動かすとバリバリと音を立てる。シート内部でのダンサーの流動的なうごめきと、乾いてひび割れていくような表面の質感がからまりあって出現する。存在を主張しながら、自らを崩壊させていくような、自傷的な獅子舞のような踊り。

(続きます)