交換レジデンスプロジェクトvol.2 ー人間のための窓ー
スタジオ「ユングラ」を拠点に活動するコレクティブ、「プロジェクト・ユングラ」と、さまざまなアーティストが参加するアトリエ/コミュニティ「円盤に乗る場」が連携し、「交換レジデンスプロジェクトvol.2 ー人間のための窓ー」をおこないます。
ある場所に何らかの魅力が感じられる時、それを作り出しているのは、その場所を維持し、利用し、変化させている人間の働きです。場所を介してうごめく人間の動きや関係性に、今回は着目します。
場所の内と外を区切り、つなぐものとして、「窓」があります。
窓は、空間を区切りながらも、中から外の景色を眺めたり、光や外気を取り入れたり、外から部屋の様子を伺ったり、窓を通して視線や言葉を交わしたり、外と内をつなぐために使われます。ドアのようにより物理的・直接的に内と外を行き来するものではなく、カーテンやガラスによって、その都度遮るものと通過させるものをコントロールしたり、いざとなれば壊されたり人が出入りする可能性も秘めていたりします。
つまり窓は、閉じながら開くことのできる、より両義的な存在だと言えるでしょう。窓があることによって人間は常に、閉じることと開くこと、切断することとつなぐことの両方を同時に促されます。
「ユングラ」と「円盤に乗る場」、それぞれの場所にある「窓」という存在から、場所と人間のつながり方、人間と人間のつながり方を考えてみます。
ユングラからは、ダンサー・振付家の木村玲奈が、円盤に乗る場に度々滞在し、円盤に乗る場からは、舞台作品制作の集まり「散策者」が、ユングラを複数回訪れ、それぞれのアーティストがその滞在を経て、作品を制作・発表します。
参加アーティスト:
木村玲奈(ダンサー・振付家)
散策者
スケジュール:
2024/9/1 散策者によるプロセス公開 @円盤に乗る場(関係者のみ)
2024/10/27 木村玲奈によるワークショップを散策者が体験する @円盤に乗る場(関係者のみ)
2025/1/12 木村玲奈によるプロセス公開 @ユングラ 17時〜19時 予約不要・参加無料
2025/2/2 散策者によるワークショップを木村玲奈が体験する @ユングラ(関係者のみ)
2025/3/2 作品公開(予定)
プロジェクト・リポート(随時更新中)
https://docs.google.com/document/d/16PkOkAW4WjwNzZ-EOMpuBhHObS9-F8lBNi0OTVgGOf0/edit?tab=t.0
主催:プロジェクト・ユングラ
提携:円盤に乗る派
企画制作:神村恵、日和下駄(円盤に乗る派)、畠山峻(円盤に乗る派)
制作:中條玲
助成:
窓についての2つのテキスト
ユングラの窓
1
ユングラの建物の隣の土地には、2階建ての古い住宅が建っていた。もう長いこと無人のようで、庭は雑草で埋め尽くされ、ひさしや縁側には穴が空いていた。スタジオの西側の窓を開けると視線の先に、その家の日に焼けてあせた赤い屋根が伸びていた。勢いをつけて飛べば飛び移れそうな距離にあり、上で昼寝をしたら気持ちよさそうな屋根だった。
隣の土地や建物はその所有者のものだが、この窓から眺める景色は、この窓から眺める私だけのものだ。景色として独占していても立ち入れない場所だからこそ、その屋根を見るたび、想像の中で私はついそこに足を踏み入れてしまう。
隣の古家は、去年取り壊されてしまった。今はアスファルトで固められた土地の中に、平屋建てのクリニックが建っている。窓を開けた先の空間はぽっかり空いていて、見下ろすと、クリニックの屋根の上に乗った太陽光発電パネルが黒く存在感を放っている。窓の外で視線が彷徨うことのできる空間は広がったが、想像の昼寝ができる屋根はもうない。
2
ユングラは集合住宅の一室にある。集合住宅において、窓は「共用部」とみなされる。たとえ専有部分の窓であっても、建物全体の内と外を区切るものでもあるから、窓自体は共用部分とみなされ、勝手に変えたりなくしたりしてはいけない。
自分の部屋の窓は、自分が独占的に使用しているのに、所有権は自分一人にはない。同時に、他の部屋の他人の窓は、自分の所有物でもある。
だから、自分の部屋の窓を開け閉めするときは、建物の住民全体を代表してそれをおこなっている。そして、他の部屋では誰かが、自分の代わりに他の窓を開けている。
神村恵
円盤に乗る場の窓
「円盤に乗る場」は、演劇プロジェクト・円盤に乗る派が中心となり、2021年に東京・尾久エリアに開設した小さなアトリエです。様々なアーティストが共同で日々創作を行ったり、集まりを開催したりしています。本を読んだり、稽古をしたり、ご飯を食べたり‥。多様な利用者の一時的な生活感が混じり合い蓄積され、この「場」の空気を醸成しています。
「円盤に乗る場」には現状窓として機能している窓はありません。備え付けの二つの窓は、通常青い防音材でふさがれており、外を見ることも中をのぞくこともできません。以前「乗る場には窓がありますか?」という質問を受け、出入口の引き戸を念頭に「大きな窓があります」と答えてしまったことがあります。それほどまでにその引き戸は窓のように機能していると感じることがあります。空気の入れ替えやホコリの掃き出し、人や物の出入りもすべてその引き戸から行われます。
引き戸が「窓」としてあつかわれている
一時的に「窓」になっている。
時々引き戸のガラス部から外を眺めると、通りをいく人が足を止めてアトリエの内部をのぞいてる姿が見えることがあります。そのまま通りすぎることが殆どですが、時に留まる方もおり、こちらも外に出てそのまま立ち話に発展することもあります。ここがどういう場所なのか、どういう人が集まっているのか。そういった疑問にお答えして何気なく世間話に発展したりします。
「円盤に乗る場」には利用者のさまざまな痕跡が残っていますが、ここを住居として生活をしている人はいません。1日の利用の終わりには必ず施錠をし、シャッターを下ろします。中には人は残らず、ここで生活が営まれることはありません。
畠山峻
参加拠点紹介
ユングラ (YUNGURA)
東京都国分寺市にあるスタジオ。2022年6月、西国分寺スタジオプロジェクトメンバーのDIYにより完成。プロジェクト・ユングラの活動拠点として活用され、「ユングラ稽古会シリーズ」が定期的に行われたり、さまざまなアーティストのパフォーマンスや稽古などもおこなわれている。
円盤に乗る場(えんばんにのるば/NORUBA)
演劇プロジェクト・円盤に乗る派が中心となり、2021年に開設されたアトリエ兼アーティストコミュニティ。18組ほどのアーティスト(2024年4月現在)が共同し、日々創作をしたり、集まりやイベントを開催したりしている。コミュニティと創作の新しい関係を追求する「NEO表現プロジェクト」を2021年から2024年まで実施。
アーティストプロフィール
木村玲奈 (きむられいな/kimurareina)
振付家・ダンサー。風土や言葉と身体の関係、人の在り方 / 生き方に興味をもち、〈ダンスは誰のために在るのか〉という問いのもと、国内外様々な土地で創作・上演を行う。ダンスが生まれる仕組みや構造を探したり、考えることが好き。近年は、ダンスプロジェクトのリサーチャーやファシリテーターとしても、幅広い年代の身体 / 心と向き合う。主な振付作品に『6steps』『どこかで生まれて、どこかで暮らす。』『接点』がある。’19 – ’20 セゾン・フェロー Ⅰ 。 ’20 – 東京郊外に『糸口』という小さな場・拠点を構え、土地や社会と緩やかに繋がりながら、発表だけにとどまらない実験と交流の場を運営している。https://reinakimura.com
散策者(さんさくしゃ)
舞台作品を制作する集まりとして、2018年から活動を開始。いわゆる「シアター」の上演に留まらず、人が集まり、話し、他者を見つめることの可能性を様々な角度から探究する。直近の活動は、「思い出して話す」(ワークショップ)、『西尾久を散策した』(円盤に乗る場「NEO表現まつり」参加作品)、『グッとベター』(円盤に乗る場「NEO表現まつりZ」参加作品)など。
スタッフプロフィール
日和下駄(ひよりげた/hiyorigeta)
1995年鳥取県生まれ。2019年より円盤に乗る派に参加。以降のすべての作品に出演。特技は料理、木登り、整理整頓、人を褒めること。人が集まって美味しいご飯を食べることが好き。下駄と美味しんぼに詳しい。
畠山峻(はたけやましゅん/hatakeyamashun)
1987年生まれ 北海道出身。舞台芸術学院演劇部本科58期卒。円盤に乗る派プロジェクトメンバー。俳優としてブルーノプロデュース、20歳の国、亜人間都市などの作品に出演。個人演劇ユニットPEOPLE太(ピープルフトシ)としてもゆるやかに活動中。
中條玲(chujo rei)
1999年生まれ。長崎県出身。2022年から2024年5月までこまばアゴラ劇場制作部。2023年よりPARAスタッフ。2024年よりバストリオのメンバー。舞台芸術に出演や制作として参加する傍ら、日記やテキストの執筆といくつかの取り組みを実施。植物を預かり日々の世話を行う「植物旅館」、コース料理の提供を行う「転蓬」など、主に自宅を場所として開きながら展開している。
神村恵(KAMIMURA Megumi)
振付家・ダンサー。美術家とのユニットも展開し、ダンスに収まらないパフォーマンス作品も発表する。近年の主な作品に、『新しい稽古』(2023年、BankART KAIKO)など。空間との関係から動かされる身体に関心を持ち、2022年より、東京都国分寺市にてスタジオ「ユングラ」の運営を開始。2021年度より、セゾンフェローⅡ。