Dance-Talk⑪ お化けのいないお化け屋敷――誰がオルタナティブ・スペースを創るのか|Dance Talk vol.11 : The Haunted House without Ghost — Who creates/consists of alternative spaces?

Dance-Talk⑪
お化けのいないお化け屋敷――誰がオルタナティブ・スペースを創るのか

科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差」の主催によるトークイベントに登壇し、オルタナティブ・スペースのユングラをテーマにトークします。参加者の方々も交えて自由に議論を行います。

ヨーロッパにおけるフリー・シーンや近年の日本におけるオルタナティブ・スペースという場所にまつわる活動は、公共劇場に対してどのような立ち位置を示し得るのだろうか。おそらくその答えはその営みがおかれる時代の状況によるだろう。例えば、公共劇場が支配的な時代において、制作プロセスから鑑賞の方法までを含む上演芸術のあり方を一義的に決定してしまうことに対することへの制度批判として登場する。あるいは社会的な事情で公共劇場が閉鎖せざるを得ないとき、公演場所を提供するための代替手段となったりする。これらの反応は時代に応じて公共劇場に対して敵対的であったり親和的であったりするが、公共劇場を通して現れる上演芸術の危機に芸術的な手段で応答している点で一致するだろう。文化施設が社会的な事情によって危機に陥る際に、芸術家自身が自らの創意工夫で活動のための場所を開くゆえに芸術的な手段なのであり、さらにいえば文化的でもある。そして社会的な機能不全に対する文化からの応答としてみなすならば、フリー・シーンやオルタナティブ・スペースへと芸術家が向かうこと自体は多かれ少なかれ政治的な身振りでもある。芸術家がある政治的スタンスに則っているからではなく、社会における文化的制度を相対化し複数化しうるからである。
したがって、フリー・シーンやオルタナティブ・スペースは公共劇場に対して批判的距離を持った相補的関係を持つといえる。しかしながら、多くのアーティストはそのような関係を生み出すことをはじめから目指しているわけでは必ずしもないだろう。そのような営みは各人にとって理想的な創造環境を生み出すことから始まっているのであり、その動機によって実現した場所が上演芸術という文化における制度からは自由な場所とみなせるのであり、結果としてこの自由が批判的距離になるのだ。
ここで注目すべきはもはやそこで「何が」上演されるかだけではない。どのようにその場所を作るのか、参加するのかというその場所を取り巻くあらゆるプロセスである。あらゆることは劇場あるいは芸術創造のために設えられてないからこそ、前提なくすべてのことに気をかける必要があるからだ。そしてその場所を維持していくこと自体も、それが制度ではなくまさしく芸術家による芸術・文化的な実践である以上は、持続可能というには不安定な営みになりうる。それゆえにこのような場所はそれを続けるために、あらゆることに気を付けながら何をしてもよいといえるのである。
このような場所で行われるダンス公演に向かう観客はもはや劇場における観劇態度とは異なる身体への視線を必要とせざるを得ないだろう。観客は、身体がおかれた環境に気を付けながら、どのように観てもよいのである。観客の鑑賞もまた制度からの自由がありうるといえるが、同時にそれは何を期待すればよいのかという不安を伴うことになる。不安を背にそれでもなおダンスを期待してしまうという相反する感情は、まさしく怖いもの見たさで向かってしまうお化け屋敷そのものではないだろうか。
今回のトークでは、西国分寺にて自らのオルタナティブ・スペースである「ユングラ」を営むダンサーであり振付家である神村恵氏に、お化け屋敷としてのユングラへと多様な人々を招き入れるのかをお聞きしたい。様々なことに際限なく気を付けること、前提条件のない場所にルールを作ること、それを自主的に持続させることはまさしく民主的な社会の継続方法そのものである。そしてオルタナティブ・スペースが持つ批判的自由はこれまで劇場制度によって支えられてきたダンスの観方や作り方、そして共有する方法をどのように継続的に変容させうるかについて、会場の参加者と意見交換をしたい。

日時: 2024年1月19日(金) 18:30 ~ 20:30
会場: 慶應義塾大学三田キャンパス大学院棟 358
講師: 神村恵
司会: 宮下寛司
主催: 科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」

*要予約→Google Forms (1/18(木)締切り)

詳細 https://web.flet.keio.ac.jp/~hirata/News/News46.html